「これからどのように状態が変わっていくのだろう」
「苦しむのではないか」
「食べられなくなったら、どうしたらいいのだろう」

がんの終末期を迎えた患者さんのご家族から、私たちが日々よくお聞きするご不安です。

終末期にみられる変化には個人差があり、すべての方が同じ経過をたどるわけではありません。しかし、これから起こりうる変化をあらかじめ知っておくことで、患者さんもご家族も、少し安心して穏やかに過ごせることがあります。

このページでは、がんの終末期にみられやすい身体の変化と、ご自宅でどのように過ごしていただくか、ご家族にできることについて、在宅医療の立場からわかりやすくご説明します。

がんの終末期には、少しずつ眠っている時間が長くなり、食事や水分の量が減るなど、さまざまな身体の変化がみられるようになります。その後、呼びかけへの反応や呼吸の様子なども徐々に変化していくことがあります。

ただし、変化の現れ方や時期には大きな個人差があります。以下はあくまで一般的な経過の目安としてご覧ください。

がんの終末期にみられる一般的な経過の目安。数週間前から最期の時間までの身体の変化を時系列で示した図

終末期が近づくと、眠っている時間が長くなったり、呼びかけへの反応が少なくなったり、呼吸の様子が変化したりすることがあります。

こうした変化を見ると、「本人はとても苦しいのではないか」と心配されるご家族も少なくありません。

見た目の変化が、そのまま苦痛の強さを表しているとは限りません。

一方で、痛み、息苦しさ、不安、落ち着かなさなどの苦痛がみられる場合には、その症状に合わせて治療を行います。医療用麻薬を含む鎮痛薬や呼吸苦を和らげる薬、不安やせん妄に対する薬などを使用し、できる限り穏やかに過ごしていただけるよう調整します。

内服が難しくなった場合にも、貼付剤や坐薬、注射薬、持続皮下注射などを用いることで、ご自宅でも症状を和らげることができます。

大切なのは、無理に意識をはっきりさせることではなく、その方にとって苦痛が少なく、穏やかに過ごせることです。

終末期になると、食事や水分をとる量が少しずつ減っていくことがあります。ご家族からは「食べないと弱ってしまうのではないか」「水分をとらせた方がよいのではないか」と心配されることがよくあります。

しかし、病状が進むにつれて、身体が必要とする食事や水分の量そのものが少なくなっていきます。

食べられないこと自体が、必ずしも患者さんの苦痛を意味するわけではありません。

無理に食事や水分をすすめると、むせたり、誤嚥したり、かえって苦しさにつながることがあります。食べられるものを、食べたいときに、食べられる量だけで十分です。

口が乾いている場合には、少量の水分を含ませたり、口腔内を湿らせたり、口腔ケアを行うことで楽になることがあります。

点滴についても、「たくさん入れれば元気になる」というものではありません。終末期には、点滴によってむくみや痰・気道分泌が増え、かえって身体の負担になることがあります。そのため、患者さんの状態や症状をみながら、点滴を行うか、量を減らすか、行わないかを一緒に考えていきます。

がんの終末期に食事や水分がとれなくなったときの対応。無理にすすめず、少量摂取や口腔ケア、点滴の考え方を示した図

終末期には、急につじつまの合わないことを話したり、「家に帰りたい」と繰り返したり、亡くなった方が見えるような話をしたり、落ち着かず手足を動かしたりすることがあります。

これは「せん妄」と呼ばれる状態のことがあり、病状の進行、脱水、薬剤、感染症、臓器機能の低下など、さまざまな要因によって起こります。認知症が急に進んだということではありません。

ご本人が穏やかに過ごされている場合には、話の内容を無理に訂正したり否定したりせず、安心できるように声をかけ、そばで見守っていただくことが大切です。

一方で、強い不安や恐怖がある、眠れない、何度も起き上がろうとして転倒の危険があるなど、ご本人にとって苦痛になっている場合には、原因を確認しながら必要に応じて薬を使用し、できるだけ穏やかに過ごせるよう調整します。

「いつもと様子が違う」「本人がつらそう」と感じたときは、無理にご家族だけで対応せず、医師や訪問看護師にご相談ください。

がんの終末期にせん妄がみられたときの症状、原因、ご家族の接し方、医療者へ相談する目安を示した図

終末期には、のどの奥に痰や分泌物がたまり、「ゴロゴロ」「ゼロゼロ」と音がすることがあります。

この音を聞くと、ご家族は「痰が詰まって苦しいのではないか」「窒息しないだろうか」と心配されることがありますが、必ずしもご本人が強い苦痛を感じているとは限りません。

このようなときには、身体の向きを変えたり、上半身を少し起こしたりすることで、音が軽くなることがあります。また、分泌物を減らす薬を使用したり、点滴の量を調整したりすることもあります。

吸引については、必要な場合もありますが、深い吸引を繰り返すことがかえって苦痛につながることもあります。そのため、患者さんの状態をみながら、本当に必要な場合に行います。

ご家族から見て「苦しそう」「息がしづらそう」「急に様子が変わった」と感じたときは、医師や訪問看護師にご相談ください。

のどがゴロゴロするときの考え方と対応。終末期にみられる分泌物の音への対応、ご家族ができること、医療者へ相談する目安を示した図

ご家族にできること

終末期になると、患者さんの反応が少なくなり、ご家族は「何をしてあげればよいのかわからない」と感じることがあります。

特別なことをする必要はありません。そばにいて、いつものように声をかけたり、手を握ったりすることも大切なケアのひとつです。

患者さんが好きだった音楽を流したり、ご家族で思い出話をしたり、身体をやさしくさすったりすることで、安心して過ごせることがあります。

口が乾いているときには、口腔内を湿らせたり、唇を保湿したりすることで楽になることがあります。食べたり飲んだりすることを無理にすすめる必要はありません。

「何かしてあげなければ」と頑張りすぎず、ご家族も休みながら過ごしてください。疲れたときや不安なときには、医師や訪問看護師に相談していただいて構いません。

終末期の患者さんのご家族にできること。そばにいる、やさしく声をかける、好きな音楽や思い出話、口腔ケア、ご家族も休むことを示した図

こんなときはご連絡ください

終末期にはさまざまな変化がみられますが、すべてをご家族だけで判断する必要はありません。

次のようなときはご連絡ください
  • 痛みや息苦しさが強く、つらそうにしている
  • 落ち着かず、不安や苦痛が強そうにみえる
  • けいれんや大量の出血など、急な変化がある
  • 呼吸の様子が急に変わった
  • 転倒などの危険があるほど落ち着かない
  • 薬を使っても症状が十分に和らがない
  • ご家族が「いつもと違う」「どうしたらよいかわからない」と感じた

「こんなことで連絡してよいのだろうか」と迷われる必要はありません。患者さんの状態だけでなく、ご家族が不安に感じたことも大切な情報です。

当院で定期的に訪問診療を受けている患者さんについては、夜間や休日を含め24時間365日相談できる体制を整えています。

ことり在宅クリニックでは、豊中市を中心に、がん・悪性腫瘍の患者さんの訪問診療、在宅緩和ケアに力を入れています。

院長は血液内科・腫瘍内科領域で、白血病や悪性リンパ腫などの血液腫瘍、造血幹細胞移植を含むがん診療に携わってきました。

その経験を生かし、がんによる痛みだけでなく、息苦しさ、吐き気、倦怠感、不安、せん妄など、さまざまな苦痛に対して、ご自宅でも症状を和らげられるよう診療しています。

必要に応じて、医療用麻薬、貼付剤、持続皮下注射、在宅酸素療法、点滴などを用いながら、患者さんができる限り苦痛なく、穏やかに過ごせることを大切にしています。

また、定期的に訪問診療を受けている患者さんについては、夜間・休日を含め24時間365日対応できる体制を整えています。

「できるだけ自宅で過ごしたい」
「最期まで家族と一緒に過ごしたい」
「退院後、自宅でどのように過ごせばよいかわからない」

といった場合にもご相談ください。

監修・執筆
院長 戸田 淳
大阪大学医学部卒
日本血液学会認定 血液専門医
血液内科・腫瘍内科領域で、血液腫瘍、造血幹細胞移植、がん診療、終末期医療に従事